【連載:身体が喜ぶゴルフ上達法 第1回】アニカ・ソレンスタム編 アニカ・ソレンスタムこそ「生涯ゴルフ」の究極解だ。

ゴルフスイングにおいて、これほど誤解され、しかしこれほど理にかなった動きをした選手はいなかったでしょう。アニカ・ソレンスタム。彼女のスイングを見た多くのゴルファー、そして当時の解説者たちさえも、こう言いました。「ヘッドアップしている」「あんなに早く顔を上げてはいけない」と。
しかし、断言します。あのアニカの動きこそが、人間の骨格構造上、最も自然で負担のかからない正解の動きなのです。
なぜ、アニカのスイングは身体に負担をかけないのか?
多くのゴルファーが腰や首を痛める最大の原因は、実は「ボールをよく見ろ」「頭を残せ」「腰を止めて捻転差を作れ」という、これまでの常識とされてきた教えにあります。
人間の身体構造を考えてみてください。腰を正面に向けたまま、上半身だけを鋭く回転させる。あるいは、インパクトで頭を強く残しながら、身体を目標方向へ回していく。これらは、背骨や頸椎に強烈なねじれのストレスを強いる動作です。雑巾を絞るような動きを自分の身体で行えば、いつかボロ布のように切れてしまうのは明白ではありませんか。
アニカのスイングを見てください。 彼女はインパクトの瞬間、すでに顔が目標方向を向いています。これを世間は「ルックアップ」と呼びましたが、私は**「ヘッドリリース(頭の開放)」**と呼びたい。
彼女は、ボールを見続けていません。インパクトで頭を残そうともしていません。身体の回転に合わせて、頭も、視線も、自然にリリース(開放)しているのです。だから首に負担がかからない。 さらに、彼女は腰を止めていません。テークバックでは右腰を後ろに引き、フォローでは左腰を後ろに引く。まるでドアが回転するように、あるいは歩く時のように、骨盤を自由に動かしています。
「どこにも力みがなく、止める動作がない」
これこそが、彼女が怪我と無縁であった最大の理由です。ブレーキをかけながらアクセルを踏むような矛盾した動きが一切ない。すべてが進行方向へと流れるような、純度の高い運動連鎖。それがアニカのスイングなのです。
なぜ、身体に負担をかけずに圧倒的女王として君臨できたのか?
アニカが長年女王として君臨できた理由。それは、彼女のスイングが**「再現性の塊」**だったからです。
従来の「身体をねじる」スイングは、筋肉の収縮と伸張を利用します。これは若くて筋力があるうちは通用しますが、日によって筋肉のコンディションは変わりますし、緊張すれば筋肉は硬直します。つまり、筋力に頼るスイングは再現性が低いのです。
対してアニカのスイングは、筋力(パワー)ではなく、骨格と重力(物理)を使っています。 頭を止めず、視線を流すことで、身体の回転はスムーズになります。スムーズに回るということは、遠心力が最大限に働くということです。彼女は無理に飛ばそうとしていたわけではありません。身体という重たい物体を、滞りなく回転させることで発生するエネルギーを、ただボールに伝えていただけなのです。
当時、彼女のスイングは「変則」と言われました。しかし今、世界のトッププロたちのスイング解析が進み、バイオメカニクスの観点からも、インパクト以降に顔を早く目標へ向ける動きは、腰や背中への負担を減らし、かつ回転スピードを落とさないための「最先端の動き」として再評価されています。
彼女は、時代が追いつくよりもはるか前に、人間本来の動きである「TenSwing(天性のスイング)」を体現していたのです。だからこそ、誰よりも安定し、誰よりも強かった。競合たちが身体を酷使して自滅していく中で、彼女だけが涼しい顔でフェアウェイを歩き続けられたのです。
50歳からのスイングづくり・3つのヒント
さて、ここからが本題です。アニカのように70歳、80歳になってもゴルフを楽しみたいあなたへ。これまでの「常識」を捨て、増田流の視点で3つのヒントを授けます。
1.「ボールを見るな、景色を見よ」
「ボールをよく見て!」というアドバイスは、今日限り忘れてください。 人間の身体は、一点を凝視すると筋肉が硬直するようにできています。首がロックされれば、肩も回りません。 アニカのように、インパクトの瞬間を見る必要はありません。ボールを見るのではなく、ぼんやりと全体を見る「周辺視野」を使ってください。そして、インパクトの音が聞こえるよりも前に、顔を目標方向へ向けてしまいましょう。 練習場では、「打つ」ことよりも「振り抜いた後に目標を見る」ことだけを意識してください。首の緊張が取れ、驚くほどスムーズに身体が回るはずです。
2.「捻転差を作るな、力みなく歩く時の下半身の動きでスイング」
「下半身をどっしり構えて」も、シニアには毒です。 65歳を過ぎたら、足腰を固めてはいけません。むしろ、積極的に動かすべきです。 テークバックでは右足のかかとを踏み込み、左足のかかとは浮いても構いません(ヒールアップ)。ダウンではその逆。まるでその場で足踏みをするように、あるいは歩くように、左右の足へ体重を乗せ換えてください。 アニカも、ヒールアップこそしませんが、足裏の使い方は非常にダイナミックで、決して地面にへばりついてはいません。 「捻転差」という言葉に騙されてはいけません。身体をねじるのではなく、**「身体を入れ替える」**イメージです。右を向いて、左を向く。ただそれだけでいいのです。
3.「クラブを振るな、クラブと一緒に動く」
最後に、グリップの強さです。 アニカのスイングに力みがないのは、クラブの重さを感じているからです。 多くの男性ゴルファーは、腕力でクラブをねじ伏せようとします。しかし、それではクラブの機能(ロフトやシャフトのしなり)は死んでしまいます。 グリップは、小鳥を包むように……などと言いますが、もっと言えば「クラブが手からすっぽ抜けないギリギリの力」で十分です。 そして、自分でクラブを振ろうとせず、クラブヘッドの重さに身体が引っ張られる感覚を持ってください。 トップからダウンにかけて、腕の力を完全に抜く(脱力する)。そうすれば、クラブは勝手に仕事をしてくれます。あなたがやるべきは、クラブの邪魔をしないことだけです。
最後に
ゴルフは、苦行ではありません。眉間に皺を寄せて、歯を食いしばってボールを叩くものではないのです。 アニカ・ソレンスタムのあの笑顔と、流れるようなスイングを思い出してください。
身体を止めず、ねじらず、力まず。 風のように、水のように、自然な流れの中でスイングをする。 それができれば、あなたのゴルフ寿命はあと20年は伸びるでしょう。そして何より、ゴルフがもっと楽しくなるはずです。
さあ、次の練習では、ボールを睨みつけるのをやめて、空や景色を楽しみながら、ゆったりとクラブを振ってみてください。そこには、今まで感じたことのない「自由」が待っているはずです。
出典:プロゴルファー 増田 哲仁


