【連載:身体が喜ぶゴルフ上達法 第2回】66歳の鉄人、ベルンハルント・ランガーが教える「形を捨てれば、寿命が延びる」

もし、あなたが「年齢とともに飛距離が落ちるのは仕方がない」「腰が回らなくなるのは老化のせいだ」と諦めているのなら、この男の存在をどう説明するでしょうか。
ベルンハルント・ランガー。 66歳を超えてなお、300ヤードを飛ばし、PGAツアーチャンピオンズ(シニアツアー)で勝利を重ね続ける、生ける伝説です。彼は特別な筋肉を持っているわけでも、魔法のクラブを使っているわけでもありません。
彼が持っているのは、「自分の身体を壊さず、効率よくボールを飛ばす術」だけです。
翻って、日本の練習場を見渡してみてください。 「トップの形が綺麗じゃない」「フィニッシュが低い」。そんな「見た目の美しさ」や「教科書通りの型」に囚われ、身体をねじり上げ、関節をすり減らしているゴルファーがいかに多いことか。
今回は、鉄人ランガーのスイングを解剖し、日本人が陥っている「形の呪縛」を解き放ちます。増田哲仁プロが提唱する「骨格と重力の調和」が、いかにしてあなたのゴルフ寿命を、そして人生そのものを豊かにするかをお話ししましょう。
「イップス」を克服した男が辿り着いた、究極の「脱・手打ち」
ランガーを語る上で避けて通れないのが、「イップス」との闘いです。彼は若い頃、パッティングだけでなく、ショットにおいても深刻なイップスに悩まされました。 イップスとは、精神的な弱さではありません。脳からの指令と、身体の動き(特に末端の手先)が乖離した時に起こる、回路のショートです。
日本のレッスンでは、「手首を返せ」「フェースローテーションを使え」と、手先の操作を強調します。 しかし、55歳を過ぎて神経系の反応速度が落ちてきた年代がこれをやるとどうなるか。タイミングがわずかでもズレれば、大ダフリかチーピンです。そして何より、手先で合わせにいく動作は、肘や手首に甚大な衝撃を与えます。
ランガーが辿り着いた答えは、「手を一切使わない」という境地でした。
彼のスイングを見てください。バックスイングからフィニッシュまで、手首の角度が驚くほど変わりません。まるで腕とクラブがギプスで固定されているかのようです。 これは「不器用」なのではありません。クラブという道具の挙動を安定させるために、最も不確定要素の多い「手首の動き」を排除したのです。
重心管理こそがスイングの全て
増田哲仁プロは言います。「スイングとは、クラブの重心を管理することだ」と。 クラブヘッドは重く、シャフトは長い。この道具を振り回す時、手先でこねくり回せば、重心は暴れ、遠心力は分散します。
ランガーのスイングは、身体の大きな筋肉(背中や脚)だけを使って、クラブという物体を運んでいます。 手首を固定し、体幹の回転だけで振る。一見、窮屈に見えるかもしれませんが、実はこれこそが最もエネルギーロスが少なく、かつ再現性の高い動きなのです。
「もっとリストを使え」という日本の常識は捨ててください。 手が悪さをするから、ミスが出る。手が余計なことをするから、肘が痛くなる。 ランガーのように、腕を身体の正面に「置いたまま」、身体全体でクラブを運ぶ。この感覚こそが、プレッシャーのかかる場面でもビクリともしない強靭なゴルフを生みます。
「トップは浅くていい」――捻転差という幻想
日本のレッスン現場で、シニアゴルファーを最も苦しめている言葉。それは「肩を90度回せ」「深いトップを作れ」でしょう。 身体が硬くなっているのに、無理やりトップを深くしようとすれば、どうなるか。右膝が割れ、腰が引け、あるいはオーバースイングになってリズムが崩れます。最悪の場合、肋骨や腰椎を痛めます。
ランガーのトップ・オブ・スイングを見てください。 驚くほど浅い位置にあります。手が肩の高さまで上がらないことさえあります。 「あんなに浅くて飛ぶのか?」と疑問に思うでしょう。しかし、彼は誰よりも飛ばします。
なぜか。 それは、「無駄な緩みがない」からです。
弓矢の原理と骨格のロック
増田プロの理論に基づけば、飛距離に必要なのは「助走距離(大きなトップ)」ではなく、「張り(テンション)」です。
ゴムを伸ばす時、ダラダラと長く伸ばしても威力はありません。短くても、ピンと張った状態から放つ方が鋭く飛びます。 無理に身体をねじって作った深いトップは、筋肉が伸びきってしまい、戻る力が弱くなります(これを「緩み」と言います)。
ランガーは、自分の骨格が許容する範囲内でピタリと止まります。 自分の可動域の限界を知り、そこで止めることで、筋肉と腱に適度なテンションがかかります。その「張り」を一気に解放するからこそ、あのコンパクトなトップから爆発的なエネルギーが生まれるのです。
「トップが浅い」と悩む必要はありません。 むしろ、無理に上げようとして身体の軸がブレる方が、飛距離を落とす原因になります。 ランガーのように、自分の骨格の限界を認め、そこで切り返す。その潔さこそが、ボール初速を上げる鍵なのです。
「フィニッシュを取らない」という選択
ランガーのスイングのもう一つの特徴は、フィニッシュが非常にコンパクト、あるいは「取らない」ように見えることです。 インパクト直後に動きが止まるような、あるいはクラブを低い位置に抜き去るような独特の動作。
日本のレッスンでは「ハイフィニッシュまで振り切れ」「背中にクラブが当たるまで回せ」と教わります。 美しいフィニッシュは憧れですが、加齢により脊柱の柔軟性が低下しているのに、無理やり身体を反らせてフィニッシュを取ろうとすれば、腰椎にかかる負担は計り知れません。
身体を守るための「ブレーキなし」運転
ランガーのあの動作は、インパクトで全エネルギーを出し切った結果、自然に止まっているだけです。 あるいは、腰への負担を避けるために、あえて回転を止めていないとも言えます。
増田プロが提唱するスイングは、「インパクトが通過点」であるという考え方です。 クラブヘッドが走りたい方向へ、身体が邪魔をせずに道を開けてやる。その結果、フィニッシュが低くなろうが、変則的であろうが、それは問題ではありません。
むしろ、「綺麗なフィニッシュの形」を作ろうとして、インパクト後に無理やりブレーキをかけたり、身体を反らせたりする行為が、腰痛の最大の原因です。 ランガーは、インパクトゾーンでの身体の回転を止めません。インパクト後も身体を回し続け、クラブの慣性モーメントを身体全体で受け止めています。
だからこそ、彼は何十年も腰痛で離脱することなく、過酷なツアーを戦い続けられるのです。 「見た目の美しさ」よりも「機能としての安全性」。 これこそ、55歳以上のゴルファーが目指すべき境地ではないでしょうか。
道具に仕事をさせる「職人」の知恵
ランガーは、長尺パターやアームロック式パッティングなど、ルール変更のたびにスタイルを変えてきました。 これを「往生際が悪い」と笑う人は、ゴルフの本質を分かっていません。
彼は、自分の肉体的な衰えや、神経系のエラーを、道具(物理)で補おうとしているのです。 これは、増田プロの「重力を利用する」という思想と完全に一致します。
自分の筋肉で何とかしようとするのではなく、クラブの長さ、重さ、重心位置を最大限に利用する。 ランガーのスイングテンポが常に一定なのは、彼が「力」ではなく「物理法則」に従って振っているからです。
アイアンショットにおいても、彼は決してダウンブローに打ち込みません。 払い打つように、クラブのソールを滑らせます。 「ボールを上から潰せ」という日本の教えは、肘や手首への衝撃が強すぎます。ランガーのように、クラブの機能(ソール幅やロフト)を信じて、芝の上を滑らせるように打つ。 そうすれば、ダフってもソールが滑ってナイスショットになりますし、何より身体への衝撃がゼロになります。
ゴルフをした後、肘が痛い、手首が痛いという方は、間違いなく「道具の使い方」を間違っています。 クラブは、あなたを助けるためにあるのです。ボールを叩くハンマーとしてではなく、ボールを運ぶ精密機械として扱ってください。
「常識」を疑い、「自分」を信じる強さ
ベルンハルント・ランガーが私たちに教えてくれる最大の教訓。 それは、「他人がどう思うかではなく、自分の身体がどう感じるか」**を優先することです。
彼のスイングは、一般的なレッスン書には載っていません。日本の練習場で彼のようなスイングをすれば、教え魔のおじさんに「手打ちだ」「トップが浅い」と矯正されるでしょう。
しかし、結果はどうでしょうか? 彼は誰よりも健康で、誰よりもゴルフを楽しんでいます。
55歳を過ぎたら、もう「誰かのためのゴルフ」をする必要はありません。 雑誌に載っている「最新スイング理論」や、レッスンプロが言う「理想の形」に、自分の身体を合わせようとしないでください。それは、サイズの合わない靴を無理やり履いてマラソンをするようなものです。
増田哲仁プロが、そして私たちJHGPが伝えたいのは、**「あなたの骨格、あなたの今の身体に合ったスイングこそが、世界で一番正しいスイングである」という事実です。
ランガーのように、自分の身体の声を聴き、無理な動きを削ぎ落としていく。 そうして残った動きは、個性的かもしれませんが、何よりも合理的で、身体に優しいものです。
次回の練習では、一度「形」を忘れてみてください。 手首を固め、トップを浅くし、ただ身体の回転だけでボールを拾ってみる。 驚くほどボールが楽に飛び、そして翌朝、身体のどこも痛くないことに気づくはずです。
それこそが、あなたが一生ゴルフを楽しむための入り口なのです。
出典:プロゴルファー 増田哲仁

