【連載:身体を壊すスイングの正体 第2回】

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その疲れは「老化」ではありません。身体の中で起きている「微細な火事」の正体

その疲れは「老化」ではなく、身体の中で起きている「微細な火事」
「ゴルフに行った翌日は、体が重くて起き上がるのが億劫だ」「練習した後に肘や肩がじんわり痛むけれど、寝れば治るだろう」といった違和感を、多くの方が「年齢のせい」や「心地よい疲れ」として片付けてしまいがちです。しかし、理学療法士の視点から見ると、それは単なる疲れではなく、あなたの身体が発信している「緊急アラート(悲鳴)」に他なりません。実は、激しいスイングを繰り返している時、私たちの体内では目に見えない「破壊」と「炎症」のドラマが繰り広げられているのです。
血液検査が証明する、筋肉の「修復なき破壊」
 医療現場では、激しい運動などで筋肉が壊れた際、血液中の「CK(クレアチンキナーゼ)」という数値が上昇することが指標となります。ゴルフは一見、過激な運動には見えませんが、スイングの瞬間、筋肉には想像を絶する負荷がかかっています。特に、振り下ろす瞬間に遠心力に耐えようとする動きは、医学的に「エキセントリック(遠心性)収縮」と呼ばれ、筋肉を最も傷めやすい動作です。これは、「時速150kmで動くクラブという重い荷物を、急激に振り上げようとして途中で無理やり止める」ような、非常に過酷な作業を繰り返している状態なのです。
 この負荷によって筋細胞レベルで微細な断裂が生じ、細胞内からCKが血中に漏れ出すことこそが「翌日のだるさ」の正体です。本来、この傷は適切な休息で治りますが、熱心なゴルファーほど修復が完了する前に次の負荷を重ねてしまいます。その結果、体内は常に「微細な火事(慢性炎症)」が起きている状態になり、筋肉は柔軟性を失い、まるで「なめし革」のように硬くなってしまうのです。
「しびれ」や「鈍痛」は、神経と血流のSOS
 さらに、練習後に手がピリピリしたり腕全体が重だるく感じたりする「しびれ」や「鈍痛」は、血流と神経が発するSOSです。スイングのフィニッシュでは、首から肩、腕にかけての神経や血管に対し、時速100km以上の勢いの中で一時的な「圧迫」と「牽引」が最大化されます。強引な捻じれによって血管が圧迫され、組織が一時的な酸欠状態(虚血)に陥ると、身体は痛み物質を産生して神経が過敏になります。これを何度も繰り返すと、神経そのものが傷つき、日常生活でも指先がしびれたり握力が落ちたりといった深刻な症状に繋がりかねません。
骨を削る「衝突事故」と、見えない微小骨折
 また、目に見えない「骨」への影響も深刻です。インパクトの際、クラブが地面を叩く「地面反力」という衝撃は、手首を介して全身に伝わります。この「0.0005秒」という一瞬のインパクトは、医学的には「微細な衝突事故」の繰り返しです。特に骨密度が気になり始める世代にとって、無理な捻じれと衝撃は、肋骨や背骨にレントゲンでは判別しにくい「微小骨折(疲労骨折)」を引き起こすリスクがあります。自分の骨の強さを超えたパワーを出し続けることは、いわば「ガラスの杖で石を叩いている」ような危うさを孕んでいるのです。
身体を修復する「ウェルビーイング・ゴルフ」への転換
 では、身体に痛みが出た人間はゴルフを諦めなければならないのでしょうか。答えは「ノー」です。大事なのは、身体にかかる「コスト(負担)」を最小限に抑え、「効率」を最大にすることです。増田プロが提唱する「力を入れない、歩くように打つ」スイングは、こうした体内の「火事」を防ぐための最高の「医学的処方箋」となります。
 まず、力を抜いて脱力することで筋肉がしなやかなバネ(サスペンション)となり、インパクトの衝撃を吸収してくれるようになります。身体の構造に逆らわない自然な動きを選択すれば、CK値の上昇(筋損傷)を抑え、翌日に疲れを残さない健康的なスポーツへとゴルフを変えていくことができます。「壊しては休む」の繰り返しを脱却し、ゴルフをすることでむしろ血流が良くなり関節が整う「ウェルビーイング・ゴルフ」こそが、100歳まで自分の足で歩き続け、笑顔でグリーンに立ち続けるための理想の姿なのです。

作成:佐藤光弘 監修:比嘉 竜二先生