【連載:身体を壊すスイングの正体 第3回】

「捻転差」という魔法の言葉が、あなたの腰を壊している

日本のゴルファーの「悩み」第1位は、なぜ腰なのか?
ゴルフによる故障部位の統計を見ると、圧倒的第1位は「腰」であり、その割合は約35%にも達します。練習場を見渡せば、腰に太いサポーターを巻き、痛みに顔をしかめながらボール
を打つ方の姿が決して珍しくないのは、この数字が示す通りです。
本来、健康維持のために始めたはずのゴルフが、なぜこれほどまでに腰を直撃してしまうのでしょうか。その最大の原因は、ゴルフ界で長年「上達の鍵」と信じられてきた「捻転差
(ねんてんさ)」という考え方**に潜んでいます。飛距離を求める情熱が、知らぬ間に腰を破壊するロジックへと繋がってしまっているのです。
「腰は回らない」という驚きの真実
多くのレッスンでは「下半身を安定させて腰を止め、上半身を大きく捻じれ」と教えられます。この上半身と下半身の回転の差である「捻転差(X-ファクター)」を大きくすれば、弓を引くようにエネルギーが溜まり、飛距離が伸びるという理論です。しかし、理学療法士の視点から骨の構造を見ると、この教えは恐ろしい「破壊への招待状」に他なりません。
実は、腰の骨(腰椎)の関節面は垂直に近い向きに並んでおり、物理的に「回転」を止めるストッパーのような形をしています。驚くべきことに、腰椎が左右に回れる角度は、5つの骨を全部合わせてもわずか5度から13度程度しかありません。にもかかわらず、多くのゴルファーは「腰を45度以上回さなければならない」という誤ったイメージを植え付けられ、設計限界を超えた無理な回転を強いているのが現実です。
「雑巾絞り」が引き起こす椎間板の悲劇
「腰を止めて肩を回す」という動作は、回るようにできていない腰の骨に対し、無理やり巨大な回転エネルギーを押し付ける行為です。この時、腰の中では恐ろしい「雑巾絞り現象」が起きています。腰の骨の間にあるクッションである椎間板は、回旋の負荷によって強烈に引き絞られ、さらにインパクトの衝撃で上から押し潰されます。この「絞りながら叩き潰す」という負荷が数万回繰り返されることで、椎間板に亀裂が入るヘルニアや、神経の通り道が狭まる狭窄症を誘発してしまうのです。特に右打ちの方で「右側の腰が痛む」という方は細心の注意が必要です。スイングの後半、腰には強烈な捻じれに加えて、右側への折れ曲がりである「側屈」が同時に加わります。この雑な三次元的負荷が腰の関節を物理的に衝突させ、骨棘(こつきょく)という骨のトゲを形成し、痛みを慢性化させる原因となります。
運動連鎖の目詰まり:なぜ腰が身代わりになるのか
理学療法には、各関節が「動く役割」と「支える役割」を分担しているという「Joint by Joint Theory(各関節の役割分担)」という考え方があります。本来、スイングの回転主役は、大きく動くべき場所である「股関節」や「背中(胸椎)」が担い、腰(腰椎)や膝はそれを支える側に回らなければなりません。しかし、現代人の多くはデスクワークなどで股関節や胸椎が硬くなっています。この「動くべき場所」が錆びついた歯車のように動かないまま、無理にスイングの形を作ろうとすると、そのしわ寄せがすべて、本来は支える役目であるはずの腰に集中します。特定の部位が動かないために、別の部位が過剰に動いて帳尻を合わせるというこの「代償動作」こそが、腰を壊す構造的な正体なのです。
JHGAの結論:「腰は止めない、回さない」
「力を入れない、歩くように打つ」スイングは、この腰の危機を救う唯一の道です。腰そのものを無理にねじる対象とするのではなく、一本の太い柱として安定させることが重要です。そのためには、まず「腰を止める」という呪縛を捨て、股関節と骨盤をスムーズに連動させなければなりません。私たちが歩く時に腰だけを止めて歩かないのと同様に、スイングも全身のリズムで行うべきなのです。腰の代わりに、本来回るように設計されている「胸椎(背中の骨)」を意識し、その可動域を最大限に活かすことで、腰へのストレスは劇的に軽減されます。これまで信じてきた「捻転差」を作ろうとする過度な頑張りを手放した瞬間、あなたの腰の痛みは解放に向かい、スイングは驚くほどスムーズで心地よいものへと変わるでしょう。

作成:佐藤光弘 監修:比嘉 竜二先生