【連載:身体を壊すスイングの正体 第5回】

手首・手指の悲鳴:0.0005秒のインパクトは「微細な衝突事故」である

手首はスイングの「防波堤」
 ゴルフにおいて、手首や指はクラブを操るための繊細な「センサー」の役割を果たしています。しかし同時に、医学的な視点で見ると、手首はインパクトの凄まじい衝撃を食い止める「防波堤」という、非常に過酷な役割を強制されています。練習場で何百発も打った後、手首がジンジンしたり、朝起きた時に指がこわばったりしていませんか? それは単なる疲れではなく、あなたの手首の中で「微細な破壊」が起きているサインかもしれません。 
                                                          
0.0005秒の「破壊的エネルギー」
 ゴルフのインパクト(ボールを打つ瞬間)は、時間にしてわずか2000分の1秒(0.0005秒)という、目にも留まらぬ一瞬の出来事です。しかし、この一瞬に発生するエネルギーは、身体にとって「破壊的」と言えるほど巨大です。
 猛スピードで振られたクラブがボールや地面に当たった瞬間、手首には急激なブレーキがかかります。この時、手首には数十G(重力の数十倍)という加速度と、激しい異常振動が伝わります。特に、芯を外したミスヒットや、地面を強く叩いてしまう「ダフリ」の際、その衝撃エネルギーは逃げ場を失い、手首の小さな骨や靭帯を直撃します。理学療法の現場では、これは運動というよりも、「小さな衝突事故」を数万回繰り返している状態だと捉えています。 
 ゴルフ特有の動きは、手首の「小指側」と「親指側」それぞれに異なるダメージを与えます。
・ 小指側の痛み:TFCC損傷(手首の半月板損傷)
 主に左手首(右打ちの場合)の小指側に起こるのが、TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷です。 スイングの後半、手首は強烈にねじられながら、インパクトの衝撃を受け止めます。この時、小指側にあるクッション(軟骨)が板挟みになり、ボロボロに摩耗したり、断裂したりします。これは膝でいう「半月板損傷」と同じくらい、治りにくく厄介な病態です。
・ 親指側の痛み:ド・ケルバン病(腱鞘炎)
 バックスイングから切り返す際、手首を親指側に深く折る「コック」という動き。この動きを無理に強調しすぎると、親指の付け根にある腱と、それを包む鞘(さや)が激しくこすれ合い、炎症を起こします。親指を中に入れて拳を握り、小指側に倒した時に激痛が走るなら、それは手首が限界を超えている証拠です。

「しっかり握ってしまう」ゴルファー
 多くのゴルファーが、クラブを必要以上にしっかり握ってしまいます。しかし、これが指の付け根の関節(CM関節)をボロボロにする原因となります。
 ギュッと力一杯握ってしまうと、手首の「遊び」が完全に消えてしまいます。すると、本来なら筋肉や関節がバネのように吸収すべき衝撃が、ダイレクトに軟骨や骨に伝わってしまいます。
 特に中高年の方において、過度な握り込み(力み)は親指の付け根の軟骨をすり減らし、将来的に「ペンが握れない」「瓶の蓋が開けられない」といった、日常生活の質(QOL)を落とす原因にもなりかねません。

JHGAが提唱する「脱力」という最高の防具
 「力を入れない、歩くように打つ」スイングは、この手首の危機を救うための「最高の防具」になります。
・「遊び」を残して衝撃を逃がす: リラックスして握ることで、手首が柔らかいサスペンションになり、インパクトの衝撃を全身へ受け流すことができます。
・ 道具の力を借りる: JHGAでは、衝撃を吸収しやすいカーボンシャフトや、手の負担を減らす適切な太さのグリップ選びなど、医学的な視点での環境調整も推奨しています。
・「手」ではなく「体」で運ぶ: 手首だけで打とうとする(手打ち)から、衝撃が手首に集中します。歩く時のように全身を連動させることで、手首への負担は劇的に軽減されます。

作成:佐藤光弘 監修:比嘉 竜二先生