【連載:第8回 身体を身体を壊すスイングの正体】

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膝と足首へ巨大なストレスを生むスイング                                                                                    

地面反力の罠
「ゴルフは歩くから健康にいい」――。これは半分正解ですが、半分は注意が必要です。確かに18ホールを歩き抜くことは、素晴らしい有酸素運動になります。しかし、その道中で「スイング」という爆発的な動作を100回近く繰り返す時、私たちの足元には、歩行時とは比較にならないほどの巨大なストレスが加わっています。
 特に近年、InstagramなどのSNSで流行している「地面を強く蹴り上げる」ことで飛距離を稼ぐスイング理論。これを、関節の耐用年数が変化し始めた中高年ゴルファーが安易に模倣することは、膝や足首の「寿命」を自ら削る行為になりかねません。

なぜ膝が壊れるのか
「地面反力」とは、地面を蹴った時に跳ね返ってくるエネルギーのことです。これを正しく使えば飛距離は伸びますが、身体の安定性(スタビリティ)が低下している状態でこれを行うと、衝撃はすべて関節を破壊する「毒」へと変わります。
 理学療法には「Joint by Joint Theory(各関節の役割分担)」という理論があります。それによれば、膝は「支える関節(安定性)」であり、回旋(ねじれ)を引き受けるようにはできていません。
 股関節が十分に回らないまま無理に地面を蹴ろうとすると、膝が内側に折れ曲がりながらねじられる「ニー・イン」という状態が起きます。
 この状態で強烈なパワーをかけると、膝のクッションである半月板や、骨を繋ぐ靭帯に「剪断(せんだん)ストレス」という、組織を引きちぎるような力が加わります。これが、ゴルフを続けるほど膝の水が溜まったり、歩く時に痛みが出たりする構造的な原因です。
                                                                                 足首と「0.0005秒の衝突事故
 スイングの衝撃は、足首にも牙を剥きます。インパクトの瞬間、クラブが地面を叩く衝撃(地面反力)は、手首から全身を通り、最終的に足元へと抜けていきます。
 インパクトは、医学的に見れば「微細な衝突事故」の繰り返しです。この一瞬の衝撃を、足首がガチガチに固まった状態で受けてしまうと、衝撃は逃げ場を失い、足首の軟骨や小さな骨を直撃します。
 骨密度が気になり始める世代にとって、この衝撃は「ガラスの杖で石を叩く」ような危うさを孕んでいます。レントゲンには写らないような微細なダメージが、足首の変形を早めてしまうのです。
                                                                             膝は「股関節」のサボりを押し付けられている
 なぜ膝や足首ばかりが痛むのでしょうか。それは、膝そのものが悪いのではなく、「股関節」や「足首」の硬さを膝が身代わりになって補っている(代償動作)からです。
 股関節が錆びついた歯車のように動かないと、身体はスイングを完結させるために、本来動いてはいけない膝を無理やりねじって「回ったつもり」になります。理学療法士の目から見れば、膝の痛みは、全身のチームワークが崩れた結果、一番弱いリンクが「過労死」している姿なのです。
                                                                               JHGAが提唱する「足元の防衛戦略」
 「力を入れない、歩くように打つ」スイングには、これらの「毒」を「薬」に変えるための医学的な工夫が詰まっています。
・「つま先を外に開く(アウトステップ)」: プロのように足先を正面に向ける必要はありません。あらかじめつま先を外側に開いて構えることで、構造的な「衝突」を避け、膝や股関節へのねじれストレスを物理的に逃がします。これは、身体の可動域に合わせた最高の「環境調整」です。
・「脱力」というサスペンション: 全身の力を抜くことで、筋肉がしなやかなバネ(サスペンション)として機能し始めます。このバネが、インパクトの異常振動や地面からの突き上げを吸収し、関節の軟骨を守る防壁となります。
・「歩行のリズム」で打つ: 人間にとって最も自然な運動連鎖は「歩行」です。地面を無理に蹴るのではなく、歩く時のようにリラックスして体重移動を行うことで、膝や足首一点にかかる負担を全身に分散させることができます。                                                                          
                                                                                         飛距離のために膝を削るゴルフは、もう終わりにしましょう。 膝や足首を守ることは、単に痛みを防ぐだけでなく、将来にわたって「自分の足で歩き続ける力」を守ることに直結します。
「歩くように打つ」スイングは、あなたの関節の寿命を延ばすための「動く処方箋」です。身体の構造を尊重し、自然なリズムで振ることができれば、ゴルフはあなたの健康を蝕むものではなく、人生を最後まで輝かせる最高のパートナーになるはずです。

作成:佐藤光弘 監修:比嘉 竜二先生