<高平尚伸先生インタビュー> 65歳からの健やかなゴルフライフのために(前編)

聞き手 理事 佐藤光弘
年齢を重ねても、緑の芝生の上で仲間とゴルフを楽しむ時間は、何にも代えがたい喜びです。しかし、65歳を過ぎた頃から「ラウンドの後に腰が痛む」「膝や首に違和感がある」と、身体の不調に悩むゴルファーは少なくありません。私たち日本健康ゴルフ推進機構は、「健康寿命=ゴルフ寿命」という理念を掲げ、ゴルフをすればするほど身体の状態が良くなるような、新しいスイングメソッドの普及に努めています。この取り組みを医学的な見地から深く支えてくださっているのが、股関節の治療やスポーツ医学の第一人者である北里大学教授の高平尚伸先生です。
本日は、当機構の理事、佐藤光弘がインタビュアーとなり、高平先生に「なぜ従来のゴルフスイングが身体を痛めやすいのか」、そして「身体を守るための本質とは何か」についてじっくりとお話を伺いました。高平先生のメソッドや医学的アプローチにご関心をお持ちの方は、ぜひ読んでみてください。そして、興味を持たれた方やもっと深く知りたい方は、ぜひ当機構にご連絡ください。
【前編】医学的視点から紐解く、身体に優しいスイングの真実
ゴルフは「身体に悪い」は本当か?
佐藤:高平先生、本日はよろしくお願いいたします。私どもの社団では、先生と共同開発しましたタカヒラボードを用いたスイングメソッドを通じて、ゴルフを一生の健康づくりに役立てていただきたいと活動しております。タカヒラボードの概要、効用につきましては、後編で説明していただきます。現状としては、熱心に練習される方ほど身体を痛めてしまうケースが多いように感じます。医学的な視点から見て、ゴルフというスポーツの特性をどのように捉えていらっしゃいますか。
高平:ゴルフは基本的に、左右非対称の動きが非常に多いスポーツです。また、スポーツというよりもゲームや遊びの感覚で捉えられがちで、準備体操を行わなかったり、終わった後のケアを怠ってしまったりする傾向が見受けられます。中高年になってから始めやすいスポーツである反面、普段あまり身体を動かしていない方が、身体の動かし方を知らないままいきなりクラブを振ってしまうと、やはり大きな負担がかかってしまうと言えますね。
佐藤:おっしゃる通りですね。事前の身体づくりを行わないままドライバーを振り回せば、負荷がかかるのは当然のことかもしれません。ただ、私はそれだけでなく、世の中に広まっている「ゴルフの教え方」そのものにも、身体を痛めやすい要因が潜んでいるのではないかと考えています。たとえば代表的なものに「ボールをよく見るために頭を動かすな」という指導があります。この教えについて、先生はどのようにお考えでしょうか。
「頭を固定する」という指導がもたらす連鎖的な負担
高平:ゴルフは身体を回転させる動きが中心となりますが、頭を無理に固定してしまうと、その回転の動きに制限、いわゆるリミットをかけてしまうことになります。動きを制限した状態で無理に身体を回そうとすれば、当然どこかに負担がかかります。具体的には、体幹部、特に背骨やその周りの筋肉への負担が大きくなり、腰痛などを引き起こす可能性が考
えられます。また、頭を止めることで最後は手だけでクラブを回すことになり、腕や股関節、膝から足首に至るまで、全身に負担が波及していくのです。
佐藤:頭を止めるという一つの意識が、首から腰、そして手足にまで悪影響を及ぼしてしまうのですね。もう一つ、ゴルフでは「腰がスウェーしないように右膝を固定する」といった指導もよく見られます。テニスや野球などでは腰を止めるようなことはないと思うのですが、ゴルフにおいて腰回りや骨盤を固定してしまうことは、どのような影響があるのでしょうか。
高平:テニスなどの他のスポーツは動きながら行う動作ですが、ゴルフは完全に止まった状態から始まります。そのため、軸を安定させる意図で腰や骨盤を固定するのだと思いますが、身体の中心となるコアの部分(股関節や骨盤)を固定してしまうと、その力は必ず別のところ、つまり手足などの末端へと波及し、悪影響を及ぼす可能性があります。たとえば、ダウンスイングの切り返しから左側に体重を乗せて無理に止めるような動きや、ひねりの動作によって、股関節周りの筋肉や関節唇〈しん〉(関節の縁にある組織)への負担が増し、股関節を痛める原因になります。
シニアゴルファーを悩ませる狭窄症と膝痛のメカニズム
佐藤:ゴルファーの方とお話ししていると、脊柱管狭窄症〈せきちゅうかんきょうさくしょう〉や椎間板〈ついかんばん〉ヘルニア、そして膝の痛みを抱えている方が非常に多いと感じます。これもやはり、無理なスイングが関係しているのでしょうか。
高平:脊柱管狭窄症などは、ベースとして年齢による変形がある方に多いのは事実ですが、腰に負担がかかっている状態が続くと変形はより起こりやすくなります。身体が硬く、十分に動かせない状態であるにもかかわらず、スイングで無理に回旋させ、ぐっと力を入れることで、自ら組織を損傷させてしまっているケースは少なくないと考えます。これはヘルニアについても同様です。
また、膝の痛みについては、急に動きを止めて左側に体重をかけてしまうことで、その都度、体重の何倍もの衝撃が膝にかかることが原因です。膝の関節は前後の動きには対応できますが、ひねりの動きには弱いため、流さずに止めてしまうと痛めやすいのです。
佐藤:体重を受け止めながらひねってしまうことが、膝を壊す原因なのですね。先生、もし股関節がうまく使えるようになれば、膝への負担は減らせるものなのでしょうか。
高平: はい。バレリーナの方を想像していただくと分かりやすいのですが、彼らが深くしゃがみ込む(グランプリエ)際、股関節が柔らかければ膝も自然と外側に向いてしゃがむことができます。しかし股関節が硬いと、代わりに膝や足首を曲げて対処しようとするため、痛めてしまうのです。ゴルフでも同様で、まずは股関節に柔軟性を持たせることが、膝などの他の関節を守るための基本となります。
佐藤:なるほど、痛みの根本的な原因は「固定すること」と「股関節の硬さ」にあったのですね。前半のお話だけでも、いかに従来の力任せのスイングや、無理に形を作るレッスンが身体に負担をかけていたかがよく分かりました。 (前編終わり)

